茅葺屋根のメンテナンスについて

私が、独学で覚えた茅葺屋根のメンテナンスについて記載します。今の時代は、茅葺屋根の家を見るのは、とても珍しい風景になります。これは、職人さんの減少と維持費がとても高額になってきたため、屋根のメンテナンスをあきらめる人たちが多くなりました。そんな中でも茅葺屋根の家を維持している人に、屋根についての知識を記載しておきますので、参考にしてください。

屋根の全体を見て、ボコボコしている場所がある場合

屋根を見て、ボコボコしているような感じの場所があると思います。これは、屋根の下地には、縦のラインに真竹を並べていって、その上に、孟宗竹を割った竹が並べてあります。ここに茅を並べていくのですが、長年経っていると、この割った竹がボロボロになって、ところどころに落ちてしまっている部分があるんです。そうなってくると、屋根の表面だけ葺き替えていくと、どんどん割れた部分に茅が下がっていくので、その部分の屋根の厚みが深くなっていきます。表面だけ綺麗に葺いても、数年たつと、ボコボコしてくるのは、これが原因となっております。ずっと、そのままにしておくと、強度も落ちてくるし、見た目も悪くなっていきます。修正する場合は、下地の修理が必要となってきます。

屋根に苔がたくさん生えてきた場合

屋根の苔がたくさん生えている場合は、見た目は、美しい感じに見えると思います。しかし、私から見たら、とてもよくない状態です。茅葺屋根は、常に乾燥している状態が良いのです。苔が生えているということは、湿度・湿気が通常より多くなりますので、その苔の部分は、常に乾燥していない状態になっていきます。そうなると、虫にとっては、天国になりますので、虫をたくさんよせてしまいます。苔の部分の下を触ってみて下さい。腐葉土に近いような状態になっていると思います。カブトムシの産卵場所・ヤスデの産卵場所などには最適の場所になります。放置しておくとあっという間に、苔と虫で屋根がやられていきます。屋根を見て、上から20cmくらいまでなら、表面の葺き替えで大丈夫ですが、それより下までいっていると下地からの葺き替えになります。

屋根の下の竹に1㎜くらいの小さな穴が無数にある

茅葺屋根のメンテナンス

茅葺屋根の下を見ると、縦のラインに真竹が並べてあると思います。その竹をよく見ると、1㎜くらいの小さな穴が無数にあいていることがあります。これは何が原因かといいますと、フタスジスズバチっていうハチがいます。体調1cmくらいの細長い蜂ですが、これが竹に穴をあけ、そこに卵を産み、幼虫のエサとなる虫を運んでいきます。孵化した幼虫は餌を食べて大きくなり、成虫になった蜂は、また同じことを繰り返すわけです。放置しておくと、どんどんと増えていき、屋根の上の竹まで穴だらけになっていきます。そうすると、屋根の葺き替えの時に、茅を並べてから下地の竹に縄を通す作業がありますが、縄を竹に通してから、引いたときに「バキ」っていって、竹が割れてしまいます。知らない間に、屋根の下地の竹は、ボロボロになっていきます。かなりひどいと台風が来た時に、屋根が耐えられなくなって、部分的に吹き飛ばされるわけです。竹の強度って、屋根の下地を見るとわかると思いますが、連鎖させて強くしているだけなんです。連鎖の部分の強度が落ちた場合は、その部分はとても弱い状態になります。

この蜂の防ぎ方ですが、6月~10月頃になったら、下地の竹に「アース製薬 ハチに巣を作らせないスプレー」を吹きかけてください。これは1か月効果がありますので、6月~10月の期間は、毎月、おこなってください。それでも、数匹は、穴をあけていきます。全体的な駆除は無理になります。

屋根に虫が増えていったしまった場合

屋根にヤスデなどがたくさん出てくるようになってしまった場合は、この虫の行動パターンを理解するようにしてください。この虫は、桜の咲くころと柿の葉が落ちるときに、一度、屋根から交尾のために地表におりてきます。この頃に、家の周りに「虫コロリ」をまけば、そこを通るので、通った虫は退治できます。この虫が増える原因は、屋根を見ればわかると思いますが、乾燥していない場所で、湿気が多いような状態の部分に多くいます。完全にゼロ匹にするには、悪い部分の屋根を下地から葺き替えることがベストになります。

屋根の材料は?

屋根の材料についてですが、すぎの子の屋根は、小麦で葺いておりますので、材料があれば農家さんに頼んでもらってきます。茅の材料になると、手間がかかりますので、高額になっていきます。すぎの子の屋根の葺き替えの時に、最後にかぶせる部分を茅にすれば、強度は10年以上になりますが、そうになると屋根は強くなりますが、その分いじれなくなり、屋根の技術も忘れて落ちていきますので、私の場合は、できれば2年に一回は葺き替えていたいです。ですので、小麦専門でとりあえず、作業をしております。

最初から茅でできている場合は、材料がなければ、表面の葺き替えを小麦でもいいんではないでしょうか?小麦を使った場合は、太陽が良く当たる面は耐久性は8年で、太陽が当たらない面は、4~5年になります。屋根の技術があればどうにでもなる作業です。

屋根を葺く技術は、小麦は難しいのか?

私は、最初から小麦を使っています。小麦は、さとのそら・農林61を使い、長さも60cm~70cmと短いです。職人さんから言うと、小麦の技術は難しそうです。短いので1工程を4工程で作っていく作業になります。茅葺屋根をよくみるとわかるのですが、端の部分が定規になっており、この部分を作れるのは、親方レベルの人になります。この端ができてから、平らな部分に茅を並べていきます。慣れれば簡単ですが、端を作れるようになるには、相当の年月がかかると思います。私は、イメージトレーニングで職人さんの経験値をクリアーしていきました。

何故、茅葺屋根の技術を覚えようとしたか?

私も最初は、この屋根の技術を覚えるのは無理だと思いました。すぎの子の屋根の職人さんに加藤さんという人が来てくれていたのですが、加藤さんからも「10年はかかるんだから、無理だよ」って言われました。すぎの子の屋根をトタンにしたり瓦屋根にしたりしたら味が無くなって思い、屋根に手を出してみたら、「おまえ、いけるよ!」って頭に声みたいなのが走ってきたので、そこから学びの体勢に入りました。葺き方の工程を覚えれば、なんとかなるのでは?と思い、独学で屋根のマニュアルを作成しました。あとは、それを見ながらひたすら勉強し、空き地に下地を作って、そこに小麦を何千回と並べて、持ち方を練習し、習得していきました。無理だと思ったのですが、10年経ったらなんとかクリアーしている自分がいたので、今では、安心しております。

茅葺屋根のメンテナンス

おかげさまで、今では、足場・下地作り・屋根葺きなど、すべて一人で作業を行えるほどに成長しました。面白いもので、縄の締め方もいろいろとありますが、茅葺屋根の縄の締め方って、下から見て、美しく、上から見ると、一度締めたら、緩まない締め方になっているんです。屋根を叩く道具も私は「コテ」なんて呼んでいますが、これもすべて手作りになっております。杉の根の部分を使って作っていくんですが、小麦にはこれがちょうどよく、叩くと、良い感じで入って行きます。屋根をカットするハサミは、ブーメランのように反り曲がっており、これを作れる職人さんもいなくなると言ったので、3つほど購入しておきました。

茅葺屋根のメンテナンス

左が杉の根の部分で作ったコテです。右が屋根のハサミを研いでいるところです。このハサミを研ぐのも経験しないとできないことですが、私は、何故か最初からできました。